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ときには自らが歌い、ある時には裏方の作詞作曲家になる特別な関係

ポップスター
チャーリー・XCX
&
作詞作曲家
ヌーニー・バオ

Interview & Text by Frankie Dunn

最近、ミュージシャンの才能に対して多くの疑問が持たれている。それは歌詞カードの裏に書かれたスタッフの中に他のアーティストの名前が入っているのを目にしたり、ウィキペディアで調べるとどんな人がどのように関わっているのかが詳細に書かれていたりするからだ。今まで私たちが一生懸命応援してきたミュージシャンは、部屋やスタジオに缶詰状態になり、歌詞の一言一言や音の一節一節を絞り出していなかったってこと? 残念ながら、答えは“YES”。私たちは騙され、利用されていたのだ。よっぽどマニアックなファンでない限り、こうした現実に驚く人は多いはず。しかし音楽史を振り返ってみると、ビリー・ホリデーやフランク・シナトラでさえも自身で作詞作曲をしていなければ、エルビス・プレスリーも然り。こうした事実は非常にナイーブな問題のように見えるが、ポップミュージックの世界では当たり前のことだ。エルビスよりももっと前から“ポップスター”と呼ばれるような歌手の裏には作詞作曲家が隠れていた。それはファッションデザイナーのそばにパタンナーと呼ばれるような人がいることと同じ。何も音楽業界やファッション業界だけではない。よくよく考えてみると、俳優が口にするロマンチックな台詞も俳優自身が考えているわけでなく、かならず脚本家がいる。こうして裏方の人たちがいるからこそ、さまざまな考え方や技術が集結しスターが生まれる。

ポップスターとソングライターの関係は複雑だ。ポップスターには、簡単なピッチを聞き、その中から自分のお気に入りの曲を選んでから、作詞作曲家と本格的に曲作りを始める場合もあれば、経験豊富な作家と早い段階から一緒に作業し、どうすれば売れるのかを考えながら曲を作っていく場合もある。そしてアーティストがほかのアーティストのために楽曲を提供することも珍しいことではない。フランク・オーシャンはジェームズ・ブレイクの『My Willing Heart』を手がけたし、ファーザー・ジョン・ミスティーはビヨンセの『Hold Up』の楽曲制作に関わっている。彼らのように1曲だけという場合もあれば、イギリス人のチャーリー・XCXとスウェーデン人のヌーニー・バオのように、一緒に音楽を作り続け5年以上になるという関係もある。チャーリーもヌーニーも一人のミュージシャンとして成功しているのにもかかわらず、何度も一緒に楽曲を制作している。なぜか? ときには自らが歌い、またある時には裏方のソングライターになる特別な関係。なぜそんなことをするのか? それはきっとお互いに魔法の方程式を見つけたからに違いない。

 


ふたりは典型的なポップスターとシンガーソングライターの関係なのでしょうか?

チャーリー:  その関係は人によって違うのかな。ポップスターの中でも、自分で書く人ももちろんいるから。私たちの関係はそういう人たちの関係性と似ているのかもしれないね。自分では書かない人は、プロデューサーがたくさんの作詞作曲家に楽曲の制作を依頼して、歌手が自分に一番しっくりくる曲を選ぶってこともある。ヌーニーだけじゃなくて、私もいろいろなアーティストのために作詞作曲をしたこともあるるからね。でも私と一緒にやる時とか、カーリー・レイみたいなアーティストとやる時って、一方的にアイデアを提案していくっていうよりも、二人三脚で作りあげていく感じだよね?

ヌーニィ:  そうね。最近は自分で書くポップアーティストも増えているような気はするけど。

一緒に曲を作るメリットはどこにあるのでしょう?

チャーリー:  私とヌーニーは長い時間を共有してきたし、それに私たちが一緒に考えている時って、ほかの人たちが同じ空間にいづらく感じてしまうみたいなの。だってスタジオにいる時、すごく変でしょ? 私たちって。スタジオの中をずっとウロウロ歩きまわっていたりしているじゃない? 私たちはお互いの距離感を理解しているから、「あっ、今なら声かけてもいいかも」って思うタイミングをなんとなく分かる。だけどもタイミングを間違ってしまうと、作業を止めてしまうことになるから結構ストレスだったりするんだよね。

ヌーニィ:  チャーリーと私は何でも言い合えるような関係だから、たとえ突拍子もないアイデアを放り投げても、それが許されるというかね。

一緒にセッションをしていて、「この人とならうまくいくな」と思ったのは早かったですか?

チャーリー:  そうね。比較的早い段階で、「この子とならうまくいく!」って感じていた気がする。いつもふたり話しているんだけど、私がスウェーデン語を話せるようになるべきだって。そしたらほかの誰にも分からない内容をこそこそと話すこともできるでしょ!

ヌーニィ: そんな日が来ると本当に素敵。

今までにほかのアーティストへ楽曲を提供するために作った曲を、自分の曲にしたいと思ったことはありますか?

ヌーニィ:  その経験は私にはないかも。

チャーリー:  私は何度かある。

それは、最終的に自分の曲としてとっておいたのですか?

チャーリー:  いいえ。例えばセレーナ・ゴメスに書いた『Same Old Love』っていう曲は、自分の曲としてとっておきたいと思った。でも、セレーナがその曲を完璧に歌ってくれたから、満足できたんだよね。それにきっと彼女が歌ったからこそ、本来よりもパワフルになったと思う。皮肉に聞こえるかもしれないけど、ジャスティン・ビーバーと付き合っていたこともあったから、リスナーのみんなが感情移入しやすかったのかな? 多くのファンは、セレーナが作った曲だと思っているはずよ。

チャーリーが『Same Old Love』を作った時は、セレーナも一緒に作業していたんですか? それとも彼女のために書いたものだったんですか?

チャーリー:  現場にセレーナはいなかった。実は、ライティングキャンプっていう、私以外の作詞作曲家が数名集まってプレゼンする場所に呼ばれて。それで、その中からセレーナが気に入ったものを選ぶっていう……。

ヌーニィ:  不思議なんだけど、チャーリーが作る歌って、どれも彼女ならではのパーソナルな視点が入っているんだけど、それが自分の曲ではなく、他のアーティストのための曲だったとしても、あたかも自分のために作られたような曲に聞こえるのよね。曲と関係を築きやすいというか。不思議なことよ。

私も同感です。話が少し変わりますが、ビヨンセの『レモネード』がリリースされた時、多くのファンたちが歌詞カードに書かれたクレジットを見て、どれだけの作詞作曲家が寄稿しているのかを知り、ある意味がっかりしていた人がたくさんいました。 ヌーニィ: 私はとくに気にしないけど。

チャーリー:  きっとアーティスト側の問題というよりも、それを批判する人たちが分かっていないだけのことだと思う。多分音楽に何らかの形で携わってる人たちからすれば当たり前のことだと分かっているから。一般の人たちは、そこに名前が載ってる人たちが、その曲にどういう関わり方をしているのかまでは理解できないから。

と、いうと?

チャーリー:  例えば一曲に20人のクリエイターやミュージシャンが携わっていたとしても、きっとその中で曲の大事な部分を作ってるのは多くても4人ぐらいだと思う。ほかは、キーボードの音とか、ドラムの音とか、サンプリングした曲とか……。使用した時間が1秒だろうが、彼らや彼女たちの名前を入れなくてはいけないからね。確かビヨンセのアルバムに、レッド・ゼッペリンの曲がサンプリングされた曲が収録されていたけど、サンプリングをしただけで、ジミー・ペイジにジョン・ボンハム、それにもう一人の名前を入れないといけないでしょ。ぱっと見この一曲にこんなにたくさんの人が携わってるの? って見えがちだけど、私の経験でいうと、スタジオに5人以上でセッションしたことないからさ。

熱狂的なファンたちは、大好きなアーティストがひとり部屋にこもって、日記をつけながら曲を書いているものだと想像しがちで、実際誰かほかの人が作っていると分かった時のショックが大きいのかなと思います。

チャーリー:  そうね。ビヨンセとかリアーナとかが歌うと、誰が書いていようと彼女たちのメッセージになるし、そのように聞こえてしまう。リアーナが『ダイアモンズ』を歌った時も、シーアが書いたなんて思いもしなかった。だってリアーナが歌う事自体に意味があるものだし、ファンはリアーナを信じているから。誰が書いたとか、誰が作曲したとかを気にさせないことが、ポップスターとして成功している人。ただ聞いて、信じればいいだけ。それだけで満足させてしまうのが本物のスターなんでしょうね。

それでふたりに聞きたいのですが、スタジオなどの制作現場の外で親交関係を持つことはなぜ大切なのでしょうか? 頻繁に顔を合わせて、レコーディングスタジオでもきっと密な時間を共有していると思います。プライベートと仕事を切り離したいと思わないのですか?

チャーリー:  仕事とは思っていないから、そんなこと気にならないのかな。見ての通り、私たちなんてまだまだ素人に毛が生えたような未熟者だから、楽しんじゃってる。歌手でいることや作曲家として活動することは、一般的に言われている“仕事をする”こととは少し違う。まったく何もしない時間を過ごして、夜の11時に急に書き出すこともあるぐらいだからね。 スウェーデン語以外に、ふたりでいることで何か学んだことはありますか?

ヌーニィ:  学んだことはたくさんあるし、チャーリーに会えたことで作詞家としてもものすごく成長できたと思う。

チャーリー:  私とヌーニーではスタイルが全然違うのもあって、ヌーニーとこうして一緒に時間を過ごしているだけで、すごく成長している気がする。お互いの強みをひとつにしている感覚。

ヌーニィ: ふたりでいることが、きっとスーパーパワーの源になっているのよね。

※PARTNERS Issue #1より抜粋した記事になります